銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余録115 萬年筆奇譚 第2章 水兵篇2節

プロフィットに戻った山城は、秘書課を覗く。


「社長に呼ばれまして・・・・・」

「お待ちしていました、入り口からどうぞ」


秘書課も食事時なので一番若い長沢枝美子一人だった。



秘書課を出て社長室入り口をノックする。


「経理 山城です」

「どうぞ~」


重厚なドアを開け、一礼をしながら入室。

そこには白髪を綺麗にまとめたやや小柄な
坂田匠がデスクに座っていた。

セーラー万年筆のキングプロフィットで書類に目を通しながら、
なにやら記していた。

老眼鏡を外して、書類を裏向けると、
キングプロフィットのキャップを閉めて
ソファーに掛けるよう仕草をする。


キングプロフィット 1320_top



「すまなかったね、お昼なのに」

「いえ、とんでもございません」


そう言いながら、社長がソファーに座るのを待つ。


「実はね、先日補正予算を組んでくれた新商品なんだが」

「水男・・・・いや、谷口から順調と伺っております」

「そこなんだ。どうも気持ちが悪い」

「おっしゃっている意味が・・・・順調なら結構なことでは?」

「補正予算は確か5000万円だったな」

「はい、新技術開発に必要と企画が上がって参りまして経営会議に諮って頂きました」

「安いと思わないか?」


そう言うと、坂田は天井を見上げて黙り込んだ。


「この件、調査いたしましょうか?」

「そうしてくれるか」

「社のお金が適正に運用されているかを調査するのも経理課の仕事です」

「社が疑っていると知られると企画開発の士気にも影響する」

「穏便に済ませます」

「山城君に相談してよかった よろしく頼む」


経理課に戻った山城は、モンブランNo.149を取り出す。
マイスターシュテュック75周年記念モデルだ。


No149 75周年 7380403_n


企画開発の氏名と出身校。
その他必要な情報は、社長からメールで送られてきていた。

プリントアウトした用紙に自分の情報を書き込んでいく。



「なるほど・・・・・奥が深いな」



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  1. 2016/12/19(月) 00:00:00|
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余録114 萬年筆奇譚 第2章 水兵篇1節

「水男?俺だ山城だ。今夜のパーティー急に行きたくなった」

「どうしたんだ?あれだけ嫌がっていたのに」


電話の主、谷口水男は不思議そうに
でも、楽しそうに返事をした。

なんでも即決してしまう山城晶夫がスケジュールを
変更したことがおかしかったようだ。


「わかった、時間と場所を後でメールする」




1週間前



プロフィットコーポレーションの幹部専用地下駐車場に
黒いポルシェ911カレラが滑り込む。

充分に減速した911はヘッドランプを点灯させ
指定の駐車場に頭から停車。

エンジンを停止させ、ドアを開けようとすると
隣のエリアに真っ赤なプジョーRCZがバックで進入してきた。

ポルシェ911カレラから山城晶夫が、
プジョーRCZから谷口水男がそれぞれ下車する。


「おはよう」

「よう」


山城はダークグレーのスーツにタンカーのコードバンシューズ。
ゼロハリバートンのアルミケースを持つ。

谷口は、ベージュのスーツ。ポーターのダレスバッグ。ブラウンだ。


二人は談笑しながら、地下からエレベーターでエントランスへ。
地下駐車場から、直接部署フロアへは行けない。


受付の前を会釈をしながら通過する。
二人の若い受付嬢は「おはようございます」といった後、
顔を赤らめ手を口元に当て互いの顔を見合う。


「そうだ、来週の金曜日、カスタムコーポレーションの女性職員とパーティーがあるんだ」


水男が切り出す。


「へぇ~」

「できればお前にも来て欲しいんだが」

「興味が無いね」

「そう言わずに。今回幹事なので頼むよ」

「他にも行きたい奴はいくらでも居るだろう?」

「先方の幹事からイケメンを揃えて欲しいと言われて・・・・」

「・・・・・・・・」

「たのんだよ。でもお前が来ると女性職員をみんな連れて行かれてしまうが」


谷口は、企画開発室へ。
山城は、経理課へ

それぞれ姿を消した。



昼休み。


山城は谷口を社外の店に昼食を誘う。
リンデン=西洋シナノキの街路樹のお陰で
銀座の歩道も涼しく歩ける。


和食レストランに入り、食事を楽しむ。


「そうだ、新商品の開発はうまくいきそうか?」

「ああ、もう少しで試作機が出来る」


谷口が答える。


「開発予算の補正枠を相談された時はどうなるのかと心配したぞ」

「どうしても新技術の開発には金が掛かる」
「お前が経理いててくれて助かった」

「いや、最後は社長の決裁だ」

「頑張って完成させるよ。後押しをしてくれたお前のためにも」



山城の携帯電話が鳴る。


「社長が呼んでいるみたいだ」

「そうか、大変だな」

「ここは俺がもつよ」


そう言って山城はテーブルに置かれた伝票を持って
会計に足を運んだ。















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  1. 2016/11/28(月) 00:00:00|
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余録113 萬年筆奇譚 第1章 水先案内篇2節

社長室の大きな扉の前に立った白山は、
鵜飼に視線を送った後


「失礼いたします。白山です」

「おお、待っていたぞ入れ」

白山が入室するのを確認して、ドアを閉め、鵜飼は秘書室に戻る。


赤ワインをこぼしたような絨毯は、
靴を履いていてもわかるくらいにフカフカしていた。

ドアが閉まり一呼吸置いて社長の並木隼は話し出す。


「見事なダメ社員ぶりだな」

黒縁メガネを直しながら、「コレなら安心でしょ?」

「ああ、言うことはない。掛けてくれ」


デスクから立ち上がり、社長室中央のソファーセットに白山を誘う。
白山は並木が座った後ゆっくり座る。

ソファーから身を乗り出した並木は、小さな声で話し始めた。


「どうだ?プロフィットの様子は」

並木は、ライバル会社のプロフィットコーポレーションの
情報を白山に求めた。


「はい、プロフィットは新商品を開発、年内に試験段階に入る予定かと」

「その新商品・・・・・・・」

そう言うと並木は腕組みをして、背もたれにもたれかかる。

「我がカスタムコーポレーションが極秘開発しているものに近いんだな?」

「はい、そのように感じます」

「スパイか?」

「でしょう」




ふと並木は、大きな声を出す。


「白山君、コーヒーでも飲むかね?」

「鵜飼君居るか?」

「はい社長」


正面入り口横に設けられた、秘書室と社長室の専用ドアの向こうから声がする。
鵜飼はドアを開け社長室に落ち着いた様子で入ってくる。


「白山君にコーヒーを、私に紅茶をくれないか」

「かしこまりました」




程なくして、コーヒーと紅茶が鵜飼によって運ばれてくる。



「と、言うことでこんな勤務態度では、賞与は大幅に減額させるぞ」

「はぁ」

「少し叱りすぎた、一緒にどうだ?」
「ところで鵜飼君、確か今夜はプロフィットの男性社員とうちの女性社員のパーティーじゃなかったかね?」

しばらく時間をおいて、「そのように伺っています」

「で、鵜飼君は参加するのか?」

「いえ、私は・・・・・」

「そうか、下がって良いよ」


鵜飼は並木と白山に一礼をして部屋を後にした。



置かれたコーヒーには手も付けず、ソファーから落ちそうなくらい
前のめりになって並木の顔を見つめて小声で。


「パーティーですか?」


並木も白山に合わせるように動きながら、


「開発部にスパイが紛れるのは容易いことではない」
「しかし、開発部の人間に近寄る女性社員ならどうだ?」

「さぁ、女にうつつを抜かしてペラペラしゃべる開発部も開発部ですが」

「それを言うな」


並木はにやりと笑う。


「そこで今夜のパーティーに潜入してもらうぞ、女スパイをあぶり出せ!」

「わかりました」


社長室前で一礼をした白山は、
足早に廊下を歩きながら携帯電話を取り出す。


「水男?俺だ山城だ。今夜のパーティー急に行きたくなった」












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  1. 2016/10/24(月) 00:00:00|
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余録112 萬年筆奇譚 第1章 水先案内篇1節

「ねぇ、アイツ。今日は出勤みたいよ」

オフィスの化粧室。
頬を赤らめ唇をとがらせ、名取英子が同僚の大下悦子にささやく。

「そうなの?たまにしか会社に来ないのね。よくわからない人だわ」

「経理の娘がエントランスで見たらしいわ」

「体調でも悪いのかしら?」

「さぁ、でね、出社すると社長室に呼び出されているらしいわ。クビも近いかも」


さらに小声で顔を寄せてくる。
少々キツイ香水の香りが鼻腔を刺激する。

「英子、今日は合コンなの?」

「わかった?パーティーよ。ライバル会社のイケメン達なのよ~。悦子もどう?」

「私は遠慮しておくわ」

「会社はライバルでも社員の交流があっても良いじゃない」





寝癖のついた髪で、ヨレヨレのスーツと歪んだネクタイ。
黒縁の大きなメガネ。そして無精髭。
あくびをしながら「おはようございま~す」と、アイツは出社してきた。


銀縁メガネの奥、陰湿そうな目で白山峰夫を上から下まで一瞥する。
総務課長の草野信二だ。


肩をすくめながら好奇の眼差しを向ける社員達。


全く意に介さず、白山は慣れた手つきでコーヒーサーバーから
ディスポカップにブラックを注ぎ、デスクに座る。

ゆっくりコーヒーを飲みながら、朝刊を眺める。




空調が完備された広いオフィスに
差し込んでいた直射日光も無くなっていく。





秘書課から草野課長のデスクに内線が入る。

「白山君、社長がお呼びだ。すぐに行きなさい」

「はい」

白山は、デスクの引き出しを開る。
10本以上並べられたモンブランNo.149の中から開高モデルを取り出し、
ヨレヨレのスーツの胸ポケットに差し込みながら、
ゆっくりとした足取りでオフィスを出て行く。


モンブラン No149開高モデル 9fc91a3b



「呼ばれたわね~ これでおしまいじゃないかしら」

「英子、嬉しそうね~」

満面の笑みを浮かべる英子に
半ばあきれて悦子が言う。





社長室に向かうエレベータを待っていると、
良い匂いが漂ってくる。

「白山さん、ボスのお呼びですか?」

振り返ると、秘書の鵜飼玲子がほほえむ。

「あれ?鵜飼さんが電話してきたんじゃないの?」

「違うわ、他の秘書ね」
「私は、経理と総務をまわってきたところ」

「ねぇ、それモンブランですね?」

「はい、149です。」

ポケットから抜き出しながら、鵜飼に差し出す。

「No.146を持ち歩く人は多いけど・・・・・」

「私はNo.149が好きなんです」

「そうでしたか。私はグレタ・ガルボを迷っているわ」


モンブラン グレタ・ガルボ 1996566300_n モンブラン グレタ・ガルボ DSC06715-640


「普段は、コレ」

そう言って、ウォーターマンのル・マン100 サントネールをポケットから見せる。

「100周年記念モデル。良い好みですね」


ウォーターマン サントネール 3717001825385_2 ウォーターマン サントネール 3717001825385_3 ウォーターマン サントネール 3717001825385_4




社長室のある7階にエレベータは止まった。
秘書の鵜飼玲子と一緒に下りて、社長室に向かう。

すれ違う部長級幹部達は、社長に叱られたのか、
あまりいい顔色をしていない。


「少しお待ちになって」

そう言うと鵜飼は秘書室に入り、社長室の確認をする。

「白山さんがお越しです」

「入れ」

奥から主の声が飛んできた。





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  1. 2016/09/26(月) 00:00:00|
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プロフィール

銀狐

Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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