銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余禄96 モンブラン、ブルーブラック

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『タイニーストーリーズ』=山田詠美・著
 (文藝春秋 税込み1400円)





デビュー二十五周年を迎えた著者の、会心の二十一篇。紹介するのは「モンブラン、ブルーブラック」。
薫子から「やり直しましょう」という旨の手紙が来た。優子が回想を始める。
二十五歳の優子はある日偶然出会った憧れの作家・中条薫子の家に出入りするようになる。
「前の子が急に止めちゃって」とパソコンでの清書を頼まれたのだ。

感激と戸惑い。初老と呼ばれる年齢ながら魅力溢れる薫子は「屈託ありそうな方が好みなの」と笑った。
半年たち、優子は自分の恋人を紹介するまでになっていた。
すっかり心を許した彼女は薫子に、誰にも言えなかった秘密を教えた。

父の失踪、アル中の母、兄からの性的虐待。男が怖い。
ようやくできた彼は、親友から奪った人だ。
薫子は耳を傾けてくれた。泣きじゃくる優子は初めてすべてが許された気がした。

やがて新作ができあがる。だがそこに書かれていたのは、優子の過去そのもの。
その上、明らかに薫子らしい女が、優子の彼氏を寝取っているくだりがあった。

華麗な文章が「私」を貪欲に食いつくしている。
激高する優子に薫子は「あなたもそんなこと言うの?」と溜め息をついた。
そしていきなり自分の手の甲に、万年筆を突き刺した……。

刺青に見えていた青黒の染みにむかって「どうしようもない奴ね」と、何度も。
優子は思わず外に飛び出す。

親友から密かに奪った男を親しい女に奪われる。
女たちは男が欲しいのではない。相手の渦中に飛び込みたいのだ。
そこで得た後ろめたさが奇妙な絆になる。女同士の淫靡なまでの執着。

エキセントリックな話は説明なく終わる。優子と同じく読む者も、インク色の闇に足をすくませる、余韻。


サンデー毎日 2010年12月19日号より



モンブランのインクを題名とした短編小説。
タイトルに惹かれて。


むかし・・・・・いつくらいの頃か
彼女の作品と出会ったことがある。
書店で立ち読みしたと思う。

当時はあまり彼女の作風を評価していなかったのだが、
言葉の使い方が上手だなと感心させられた作家ではあった。


この短編小説は、山田詠美らしいかと言えばそうではない。
「彼女も丸くなったかな?」と思わせる。

しかしそこは、さすが、山田詠美。
すべての短編がエログロで悲しく、怖くておかしい。
鈍感なようで実は緻密。陰湿に次ぐ陰湿・・・・・・

何とも言えない世界観と読むだけで簡単に目の前に映る光景。
自分の中のエログロが投影させているのだろうか?と
錯覚か妄想かわからぬ世界に誘ってくれる。


「ひざまずいて足をお舐め」
宝石を舌の上で転がすように色や何やを比べられる。
という・・・・山田詠美。


タイニー=ちっぽけ
と、言うだけあって全部の物語は小さい範囲の内容で、
「みみっちい」という感じ。

モンブラン、ブルーブラックに関しては、
非常に儚く危険な関係の上に成り立つ相関に興奮を覚える。
ただ、このタイトルにするには・・・・・・まあ、いいか。


山田詠美。
ものすごく緻密に書いているはずなのに、何の脈絡もない無責任な短編の集合体のように
(あとがきでも言っているが)見せているところが凄い。
小説が上手いとはこういうことなんだなと、違うところで感心させられた。


「いい?短編とはこう書くのよ」と、彼女に言われているようだ。





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  1. 2012/12/10(月) 00:00:00|
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銀狐

Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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