銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余禄92 よむ、詠む、読む

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『よむ、詠む、読む』=高橋睦郎・著
 (新潮社・1680円)




平生則辞世、詩人の覚悟

詩人が折々のエッセイで綴った日本文学史。
書下ろしではないから一貫した構成があるわけではないが、それがかえって読み易く面白い。


表題の「よむ、詠む、読む」の「よむ」は、言葉がもと「呼ぶ」
つまりあの世の魂を呼ぶ機能によって成り立ったことによる。

それを一つの作品として形にするのが「詠む」であり、その作品を読者が享受するのが「読む」である。
この三つの「よむ」が詩人の営みをあらわしている。
いかにも詩人らしい深い考察であり、この考察によって文学のはじまりの幕があく。
『古事記』『万葉集』『源氏物語』から、和歌、漢詩、俳句、能、浄瑠璃、歌舞伎に至るまで。
それぞれの本質が語られていく。


面白いところは随所にあるが、とりわけて面白いのは「源氏」の六条御息所。
彼女の生霊は光源氏の愛人夕顔、本妻葵の上を殺し、その死霊は女三宮、紫の上にも祟った。
しかしなぜか、源氏のもっとも深く愛した藤壺には祟らなかった。
その謎が、『古事記』における神話の構造分析を援用しながら見事に解かれる。



面白いところは他にもある。


中国文化が日本に与えた影響ははかり知れないが、
ここでは江戸時代の俳人蕪村がいかに漢詩の手法を利用して、その独特の作品をつくったかが語られる。
そのなかにこういう一節がある。


中国の詩歌文芸が表現されたもの自体を重視するのに対して、日本の詩歌文芸は、
表現されたものとものとのあいだにある空間、「間」を重視してきた。

これだけではわかりにくいかも知れない。
しかし漢詩、俳諧をとり交ぜてつくられた蕪村の作品を見れば、
いくつかの形式を重ねるその「間」が美しい余韻となって読者の心に響いてくることは明確である。


話はなにも蕪村にかぎったことでも、詩歌にかぎったことでもない。
日本文化のさまざまな分野で「間」が重要な働きをしていることはあきらかである。
それを中国文芸に接した日本人がおのれのオリジナリティのなさを感じて、
逆に「間」をつくることによって自己のオリジナリティをつくったというところにユニークな見方があり、
詩人のすぐれた直感の洞察がある。






圧巻なのは最終章の「平生則辞世」である。
イタリアのアルピーノでの講演速記を補筆した短いエッセイであるが、
ここで著者は、詩人たちの辞世を論じて、大津皇子、柿本人麻呂、西行、芭蕉、正岡子規の五人の人生にふれる。


芭蕉の辞世は「旅に病で夢は枯野をかけ廻る」。
しかし一方芭蕉自身はこの句を辞世とは思っていなかったらしい。
というのは芭蕉の病床に付き添う弟子が辞世を求めたところ、その必要はない、
自分は平生から一句一句辞世のつもりで詠んでいると答えたからである。



平生則辞世。


五人の詩人の辞世を読みながら、著者自身の到達した結論は、これである。
そしてそれは、共和制の崩壊しつつあるローマ時代にここアルピーノで生きたキケロにも通じ、
同時に地球全体の危機が叫ばれている今日の時代に生きる自分にも通じる。

毎日が生涯最後の日、世界終焉の日のつもりで生きる。一生懸命書く。それが生きることの意味だから。

最後に著者は一人の詩人として自分の作品を挙げる。
「平生則辞世」の一編として。著者にとって詩を書くことこそが生きる意味であった。
その詩人の覚悟が胸をうつ。




昔、全日空機墜落事故が発生した際、乗り合わせていた小学6年生の少女の
作文がテレビで紹介されていたことを覚えている。
タイトルは、「一日一生涯」。

明日死ぬなら今日をどう生きれば良いのか?
何も出来ないかもしれないが、一生懸命に生きることは出来る。
そうすれば、何かしら良いことが起こるかもしれない。

そう記されていた。
20代の私は頭を殴られたような感覚を覚えた。




まだ幼い彼女がその境地にたどり着き何を見たのだろうか?
また、早くに一生をとじてしまったこと。


もしこの世とあの世が存在して、この世に人は修行に来ているのであれば、
悟りを開いた彼女を、「もう修行はせんでよろしい」と、
早々に修行を終わらせてもらえたからかもしれない。



欲にまみれた私からは想像もつかない。






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  1. 2012/05/14(月) 00:00:00|
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Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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