銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余禄87 三島由紀夫の恋愛観

三島由紀夫と聞くと、自衛隊駐屯地での割腹自殺。
少々保守的な臭いがする作家というイメージがついて回る。




三島由紀夫は、「恋愛」について意外と多くを語った小説家だ。


その独特な考えを知る上で、非常に重要な言葉が、
死の二年前に書かれた『愛国心』という短いエッセイの中に記されている。


曰く
「愛という言葉は、日本語ではなくて、多分、キリスト教から来たものであろう。
日本語としては『恋』で十分であり、日本人の情緒的表現の最高のものは『恋』であって、『愛』ではない」と。


煩瑣な語史に関しては全くわからないが、


最初、肉親の親密さの表現として用いられ、
やがて人に好まれる魅力の謂となった「愛」が、
中世以降、仏教的な煩悩の一つに数えられ、
近代になって、西洋的概念の輸入により、
一気に意味の広がりを持ったというのは事実らしい。


実は、拙著『かたちだけの愛』では、三島のこの分類から、


「恋」とは刹那的に燃え上がって相手を求める感情、
「愛」とはむしろ関係の継続性を重視する感情と、定義的に分けて考える。



その上で三島作品を振り返ると、彼の恋愛世界に於いては、必ず「恋」が「愛」よりも上位に置かれている。



『春の雪』の主題は、「愛」ではなく、「恋」である。

松枝清顕は、聡子との「愛」が実現しそうになると、そっぽを向いてしまうが、
彼女が皇族に嫁ぐこととなって、その関係が不可能となった途端に、
突如その「恋」心を燃え上がらせ、熱烈に彼女を求める。


『英霊の聲』で、二・二六事件の将校たちの霊が語るのは、
天皇への「恋のはげしさ」、「恋の至純」であり、決して「愛」ではない。
相互に到達不可能な存在でありながら、なお奇跡のような恋の成就が夢見られているのが、あの場面である。


では、三島にとって、「愛」はどんな表現になるのか? 
それは常に、徹底して、人工的な感情であり、その端的な例は『沈める滝』や『鹿鳴館』のような作品である。
しかし、そのニセモノの極まったところに、何か本物の「愛」らしきものが
垣間見られているのもまた三島文学の逆説的な魅力である。


「恋」と「愛」との違いを、ほとんど体質的に心得ていて、
しかも、「愛」の方をより重視したのは谷崎潤一郎だろう。
二人の作品を、「恋愛」に注目して読み直すと、多くの発見があるはずである。




「恋は下心、愛は真心」なんて洒落を言っている方が良いのかもしれない。




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  1. 2011/12/19(月) 00:00:00|
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Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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