銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余禄81 憂鬱の文学史

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『憂鬱の文学史』=菅野昭正・著



(新潮社・2310円)






今を去る90年前、1919年すなわち大正8年に刊行された佐藤春夫の傑作『田園の憂鬱』の批評。


書くことは作曲、読むことは演奏。
これほどの名演奏があるだろうかと思わせられるのは、
細部にいたるまで見事な解釈がほどこされているからだ。
その解釈によって、決して長いとはいえない『田園の憂鬱』ひとつから、
明治・大正・昭和の文学の大きな流れが浮かび上がり、
さらに世界文学の流れまでが手に取るように分かってくる。

「文学史」と称した理由に違いないが、
耳に残るのはあくまでも『田園の憂鬱』であって、読書の歓びとはこういうものかと思わせられる。


したがって、『田園の憂鬱』というレンズを通して、
世界文学すなわち近代文学の、その近代というもの、モダニズムというものを、
くっきりと浮き上がらせることにある。


ボードレールが提起し、後に20世紀を風靡することになった「モデルニテ」という考え方は、
芭蕉の言う「不易流行」そのものであって、これを誤りなく会得したのが佐藤春夫であり、
体現したのが『田園の憂鬱』である、ということになる。


佐藤春夫が評論「『風流』論」において「今日といふ平面」(流行)と
「古今といふ立体」(不易)の重層を説いているのはまさにその意味においてであって、
『田園の憂鬱』は「期せずして《モデルニテ》の理論を実践する」ことになった。
これが『田園の憂鬱』が真のモダニズムを実現している証明だ、というのである。



吉田健一が18世紀を際立たせるために19世紀を用いたとすれば、
菅野昭正は20世紀を際立たせるために19世紀を用いているのだ。


前者が古典主義に傾斜しているとすれば、後者は現代主義に傾斜しているのであって、
それが吉田健一へのひとつの返答になっているのである。
大正文学論すなわちモダニズム論の装いのなかに、
平成文学への明瞭な批評すなわちポストモダニズム批判が透けて見えるのはしたがって必然であって、
著者自身がモダニズムを実践しているのだ。これは吉田健一にはなかったものである。


全体は4部に分かれる。
室生犀星の短文「モダン日本辞典」を俎上(そじょう)に、
近代とモダンの違いを説いて大正・昭和文学の要所を衝く第一部、

憂鬱すなわちメランコリーの系譜を古今東西の文学に探る第二部、

『田園の憂鬱』の見事な演奏というべき第三部、

それをさらに大正時代ひいては第一次、第二次大戦間の世界状況のなかに位置づけ、
モダニズムの本質を明らかにする第四部。


だが、横たわっているのは、20世紀末から21世紀にまたがる平成文学の、
その現在をどのように位置づけるべきかという問題意識である。


どうする?平成の文学屋さん。
思わず挑戦的にニヤついてしまう・・・・・。



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  1. 2011/02/28(月) 00:00:00|
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Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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