銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余禄79 寿命論

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『寿命論--細胞から「生命」を考える』=高木由臣・著


なぜ生物は死すべき運命を背負ったか。
「生と死」は、永遠のテーマである。

人は時間・未来というものを認識し自らの死を考えるようになったが、
動物も直面する危難からは必死に逃れる。
生物は本来生きるべく生まれ、進化してきた存在だから。
ではなぜ、生物は死なねばならないのか? 
寿命は生物種ごとにほぼ決まっているが、それはなぜだ。



私たち人間の場合、誕生から死までが寿命である。
それなら種子が千年の時間に耐える蓮の寿命は、どう考えればよいのか。
また、私たちの身体を作る細胞は、独立した生命体でもある。


体内では何兆という莫大な細胞が働き、寿命に応じて毎日死ぬ。
体細胞の分裂には限界があって、ヒトの皮膚細胞の分裂は50回までだそうだ。
細胞の寿命は何が決めるのか、個体の寿命と細胞の寿命は関係するのか。


私は小さい頃学校で細胞分裂を理科だったか生物だったかで、
教わったとき、同じものが出来るのにどうして老いるのか不思議だったことがある。



この不可思議な寿命を長く追ってきた著者が、本書で到達点の整理を試みた。
まず、先のような数々の疑問をとりあげる。寿命の概念は、相当複雑だ。
「自己同一性が継続される期間を寿命と呼ぼう」という著者の出発点は、とりあえず納得。

でも「自己同一性とは何?」という疑問も、すぐわく・・・・


著者はさまざまな動物実験を繰り返し、多岐にわたって考察を進めた。
確かに寿命は環境で変化するし、長寿の系統を作り出すこともできる。
その中で著者は「大事なのは寿命の長短ではなく、寿命のあり方だということ」に気づいたという。
人生についてならありきたりだが、細胞レベルの話である。


著者がいう寿命のあり方とは、次世代につながる「ジャーム(生殖に直接係わる細胞)」と、
身体細胞など一代限りの「ソーマ」への資源・エネルギーの振り分け問題だと整理される。
ジャームによる世代引き継ぎは最優先だが、そのためにはソーマの働きも必須だ。
問題は両者をどう活かすか。


ともあれ、細胞が基本。
まず、いくらでも分裂を繰り返す原核細胞は100%の複製で自己同一性が保たれ、
寿命はない(無限)と宣言される。

だが原核細胞から進化した大型の真核細胞は、有性生殖を始めた。
それは自己の連続性を断ち切ることになる。ここから寿命が生まれたことになる。
なぜ寿命という犠牲を払ってまで有性生殖を始めたのかという問が、本書でも大きな流れを作っている。


死ぬほうは、本来無限に分裂できる細胞に抑制がかかって死ぬ。
抑制=死のメカニズムは、多様な遺伝子のネットワークとして張り巡らされている。
「寿命遺伝子といったものはあり得ず、特定の寿命遺伝子を求めその機能を解明することが
 寿命を理解することだというような考えは……もはや成り立たない」とは、

著者の自省も込めた表明である。


寿命は、生物が進化の中で自ら導入し作り上げたシステムなのだ。
著者は、真核細胞の大型化に起源があると考える。
遺伝子も大型化するので転写に時間がかかってミスコピーによる劣化が増え、
リセットしないと子孫が残せない。

そこでリセットのため、有性生殖が導入されたと。
両性による遺伝子多様化のメリット(これが通説)は、二次的効果だという。
多細胞生物では、生き残り競争に有効な身体組織が細胞の分業で発達した。
同時に身体は、死すべき運命も背負う……。
おぼろげながら寿命というシステムの基本が見えてきたと、著者は考えている。



はっきり申し上げよう。
私のしょぼい頭ではシステムの基本は見えなかった。
しかし子供の頃の疑問には小さな明かりは見えた気がする。






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  1. 2010/09/27(月) 00:00:00|
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Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
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