銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余禄73 光る原子、波うつ電子

62107943



『光る原子、波うつ電子』=伏見康治・著


(丸善・1890円)


本書の内容が書かれた時期は戦前、というより戦時中であり、
それでいていわゆる復刻版ではなく、新しく今回編まれて刊行された書物だ。

著者は、理論物理学の分野で目覚しい業績を上げてこられた研究者である。

大学等で物理学を選考した事のある人はご存じの名前だろう。
1900年代の日本の物理学界は、まことに希有な人材を豊富に生み出した。
1902年生まれの山内恭彦、06年の朝永振一郎、小谷正雄、07年に湯川秀樹、
10年の渡邊慧らであり、著者は1909年の生まれ。

ちなみに私に物理を教えてくれたのは、浦井達夫先生。
東大卒業後、湯川先生の下で研究された方だ。
防衛庁技術研究本部第1研究所第1部対原子力研究室長をされていた。
もうお亡くなりになったが、あの方の脳が消えるのが惜しいと真剣に思った。

話が逸れてしまった。
仁科芳雄の監修になる『図解科学』(中央公論社、のち朝日新聞社)
という雑誌に連載した文章が、本書であるらしい。
著者はその直前『科学知識』という雑誌に、やはり量子力学の解説を連載し、
その卓抜な内容は「ろば電子」というタイトルで、啓蒙的な科学解説の代表例として、
現在まで語り継がれている(みすず書房刊の著作集に収載)が、
仁科は恐らくその成功を知って、著者を見込んだのだろう。10本の文章からなり、
本書のタイトルは、そのうちの2つに付けられた標題をとってある。
むろんその1つは「光源氏」をもじったものだ。


物質構造の基本である分子の解説から始まる本書は、
通常は理論物理学者が踏み込むのを避ける物性論的な場面にもきっちりと対応しながら、
光の本性、電子の特徴へと筆が進む。

第七話から、兄弟が登場し、第九話からはそれが太郎と次郎の対話という形へと変わっていく。
読み進む内に自然に量子力学の基礎的な内容を、掴むことができるように工夫がこらされている、
というのが、本書のアウトラインである。



学生時代、量子力学や相対性理論。
電子の波動性、X線の粒子生を波動関数を用いて証明させられたり・・・・
同期とバーボンをラッパ飲みしながら、物理について話していて悪酔いした事。
妙に若い頃が懐かしくなる1冊だった。


半世紀以上も前に書かれていながら、内容的に「古い」とは感じさせないのも、
驚きと言えば驚きである。


現在の研究者は、研究論文を書くことに精力を集中しており、
同僚とのコミュニケーションは充分とれるが、分野が違う人、ましてや一般の人々に、
自分の研究内容を伝える能力を欠いている、という印象を持つ。

だから、一般の読者向けの書物を書いたり、啓蒙的な仕事をすることに、
困難を感じ、むしろ敬遠するようになる。

自分たちの表現力の貧しさを棚に上げ、
「俺のやっていることは一般人にはとうてい理解できないことさ!」
なんてうそぶいてみせる。
一発ぶん殴ってやろうかと思う。


だから研究者にはっきり言っておこう。
あなたたちは、特別難しい事を研究しているのではなく、
研究内容を易しく説明できないから、一般の人は難しい事をしていると勘違いするのだ。
もっと人に物事を伝える能力を磨きなさい。
でないと、理解できない政治家に「事業仕分」で予算削減と言うことになりかねないですよ。



いつもありがとうございます。
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  1. 2010/03/22(月) 00:00:00|
  2. 余録
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

sio_shさん。

ありがとうございます。
おっしゃるとおり、あまり詳しくない者が
引き込まれる書物はありませんね。
だから、昔の書物に光が当たる。
「専門書だから」と、高をくくっていては、
原子物理学自体の荒廃につながると危惧しています。
もう、20年以上も昔、頭をボリボリ掻きながら
勉強したことを昨日のように覚えています。

やっぱり、あの頃が懐かしい。
  1. 2013/03/04(月) 11:50:37 |
  2. URL |
  3. 銀狐 #-
  4. [ 編集 ]

どうも、ここらの原子物理学は最近は学校でもあまりやらないようだし、いい本も少ない気がするので、こういう昔の本のが面白いですね。専門レベルだとシュポルスキーあたりが名著なのですが。量子論や核物理学に至る前までの範囲となるとどうも少ない。人物史レベルなら結構あるけれど。最近だと素粒子物理学や宇宙論の本はまだありますが、原子物理学あたりとなるともはや見向きもされなくなった感がある。これからもこういう昔の本を復刊して行ってもらいたいものです。江沢洋の誰が原子を見たかの岩波現代文庫復刊版のあとがきでもてっきりこのような硬派な啓蒙書が少なくなったと嘆いていた。できれば電子書籍で読みたいものですが、まだまだ理工書は少なく著作権切れのものでも数式が大量に出てくるようなものは皆無。。。
  1. 2013/03/04(月) 11:07:28 |
  2. URL |
  3. sio_sh #-
  4. [ 編集 ]

皇帝ダリアさん。

ありがとうございます。
おぉ~買われましたか~
私は化学が嫌いで・・・・
カリキュラムにはありましたが、
あの有機亀の甲を見るだけで鳥肌が。

物理の方がすんなりと頭の中に・・・・
元々がスカスカなので良く入ってきます。

光のもつ粒子性、電子の持つ波動性。
量子力学が分かりやすく紹介されています。

これを理解した上で、特殊相対性理論を勉強すると、
ボーアとアインシュタインの考える矛盾が浮き彫りとなってきて
それはそれでお酒が楽しく飲める状況になれますよ。
  1. 2010/03/23(火) 11:30:39 |
  2. URL |
  3. 銀狐 #-
  4. [ 編集 ]

購入しました!

私は大学で化学を学びました。
もっと言うと、物理が嫌いだから化学に行ったわけですが、化学科でも物理の授業はあるわけで・・・。物理嫌いの私は物理に関する単位を取るのにすごく苦労しました。

あれだけ苦労した物理ですが、卒業後何故か急に興味がわきだし、専門レベルでは無理なので一般向けの本を結構読んできました。

そんな時に、この本の紹介。たった今アマゾンで購入しました!楽しみです。
  1. 2010/03/23(火) 00:27:49 |
  2. URL |
  3. 皇帝ダリア #67LIWXyg
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Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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