銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余録119 萬年筆奇譚 第3章 パーティーの女篇4節

「山城さん、おひとり?」


山城が視線を向けた先に、カスタム社 営業部の長原純子がワイングラスを持って立っていた。
営業で外回りをしているのか少し日に焼けていた。

山城はソファーから体を浮かせ、長原が座るスペースを作る。
山城に尻をぶつけるくらい近い距離に座ると、


「プロフィット社はイケメンばかりだけど、まだあなたのような美男子が居たのね」

「カスタム社も美人揃いで、目のやり場に困ります」


はにかんだ少年のような笑顔を作る。
演技ではないのだが、その笑顔に長原は少し身震いをした。


「せっかくあなたのように素敵な男性と出会ったのに」
「私は、来年の3月で退職するの」

「結婚するのですか?」

「いえ」


首を振ると綺麗な栗色の髪が揺れた。


「父が高齢で家業を継ぐの」

「そうなんですか。失礼でなければどのようなお仕事か・・・・・」

「小さな町工場で、プロフィット社の下請けをしていますの」

「うちの?」

「ええ、年内までに仕上げなければいけない試作があって大忙しです」

「試作って親会社がするものじゃないんですか?」

「今回は材料から手探りみたいなので共同で」

「一日でもお父様のお手伝いをしたいところですね」

「ですが父はこの件が片付いてから帰ってこいと」


話し込む二人を、企画開発の担当者達が気にかけている。
その姿を見た山城は、


「私は経理で現場というのを全く知りません」
「まして弊社の製品となると大いに関心があります」

「いつでもよろしくてよ。あなたなら大歓迎ですわ」


そう言って、バッグを開くとモレスキンとシャンパンゴールドの
パーカーインジェニュイティを
取り出し連絡先を記入しピッとちぎり山城に差し出した。


インジェニュイティ 141105okb01


モレスキンの紙片を眺めながら、


「近いうちにご連絡させてください」

「夜ならほとんど自宅に居ますので」


離れたところから営業部の同僚達が長原を手招きしている。
一礼をして、長原は立ち去った。
長原は、同僚達にどんな話をしていたのか執拗に聞かれる。


紙片を折って内ポケットにしまいながら、
突破口になるかも知れないとぼんやり考えた。


パーティーも佳境、参加者達は連絡先の交換を始めた。
谷口は総務の二人に捕まってヒソヒソ話している。
時折、名取が山城に絡みつくような視線を送る。


トイレを済ませて会場に戻ると、パーティーはお開きになろうとしていた。

鵜飼には近寄らないよう意識していたが、
気づいていないのか一度も話しかけてこなかった。
安堵と同時に少し寂しい気もした。
しかし・・・・なぜ、参加しないようなことを言ったのだろう。


会場を後にしてホテルのエントランスを歩いていると、
数人の女性従業員も山城の後をついてくる。

早めにタクシーを拾って・・・・と考えていると
目の前にひょっこり谷口が現れる。真っ赤な顔をして、両脇に名取と大下がいた。


「これから俺につきあえよ」

「いや、今日は疲れたタクシーで帰る」

「そう言わずに」

「これから私の家で飲み直さない?」


大きく胸の開いたドレスを揺らしながら名取が割り込む。
なるほど・・・・水男を取り込んだ訳か。

後ろをついてきていた女性職員達は嫉妬のまなざしを名取と大下にむけ、
山城を追い越していく。ラミー電気の令嬢では太刀打ちできないのだろう。

一刻も早く帰宅して今日のパーティーで観察した人の動きを整理したかったが、
懇願するような水男の視線を見ると、可哀想になってしまう。


「わかった、水男の顔を立てるよ」

「すまない」


ホテルを出ると、白いリムジンが横付けになって、ボーイが交通整理をしている。
もう一人はドアを開けて頭を下げ待っている。

名取はそんなボーイ達を見ることもなくズカズカ歩き、
山城達にリムジンに乗るよう促す。


男女4人を乗せてもまだ余裕のあるリムジンは、音もなく走り出し
六本木から名取の自宅、渋谷区松濤町に向かう。

名取はケリーバッグを放り出し、ドレスの上着を脱ぎ捨てる。
ノースリーブになったおかげで大きなバストがさらに強調される。

山城の横に座って胸をこすりつけてくる。
向けた顔は唇がめくれ上がり好色なものだった。






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  1. 2017/04/24(月) 00:00:00|
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余録118 萬年筆奇譚 第3章 パーティーの女篇3節

白山は喫茶店のトイレでネクタイを締め、支度を調えた。

支払いカウンターで、アイスコーヒー代を支払う。
ウエイターの目はエメラルドのネクタイピンに釘付けになっていた。


向かいのホテルまで道を横断する。


正面玄関に入ると、谷口がほっとした顔で駆け寄ってくる。

「山城、来てくれたんだね」

「参加すると言っただろう」

「それはわかっていても本当に来るかが不安で」
「お前!凄いネクタイピンだな。本物か?」

「あぁ、でも、そんなに高価じゃないよ」

「お前が時々わからなくなるよ」


受付では、氏名を記入して
透明の名札ケースを受け取る。
そこに名刺を差し込んで胸ポケットにクリップで止めるのだ。

受付カウンターには、カスタムコーポレーション営業部の女性達が座っていた。


「お名前をお願いします」

差し出された記帳用紙に、モンブランNo.149
90周年記念モデルを内ポケットから取り出し記入。

透明の名札ケースを受け取って、谷口に向かって、

「水男、どうして名刺なんだ?大きく名前を書けば良いじゃないか」

「ここがミソなんだよ。名刺の名前なんて小さい字だろう」
「相手の名前を知りたければ近寄らないとダメなんだ」

「さすが企画開発だ」


ホテルの会場を貸し切った立食風のパーティーになっており、
中央にテーブルが10ほど並んでいる。
テーブルの上には豪華な食事やオードブル。

部屋の端には大きなソファーがいくつも並べられていた。
所々に、うどんやローストビーフのコーナーも。

当初未だ馴れていないのでめいめいソファーに
男性、女性別れて座って話し込んでいた。


「全部で50人くらいか」

山城はつぶやいた。



会場のコーナーから、本日の幹事2名が挨拶をする。
乾杯の音頭は、谷口の紹介で、秘書課の鵜飼玲子が勤めた。

チョコレート色のパンツ姿だった。
いつもスカート姿なので新鮮な感じがする。


ウエイターが各テーブルにビール等を運んでくる。
最初はぎこちなかった参加者も酒も入って、次第に打ち解けていく。


皿に食べ物を取り、ビールを飲んでいると、
総務課の名取と大下が息を弾ませてやってきた。


「はじめまして、お名前をお教えください」

大下がしゃべり終わらないうちに、
名取は「私、名取と言いますよろしくね」

「大下です、はじめまして」


こいつら・・・・・気づいていない。


「山城晶夫です。よろしくお願いします」

ゆっくり一礼をする。


「今日は来る予定じゃなかったんですけど、欠員が出て」
「玲子に無理矢理連れてこられました。でも、よかったです」

大下は白いドレスをゆっくり揺らしながら語る。

「パーティーは初めてですか?今まで見かけませんでしたから」

名取も負けじと質問してくる。

「はい、水男・・・いや谷口幹事に誘われて」



その二人の後ろには、プロフィット企画開発軍団が
話しかけたそうにモジモジしていた。

谷口が気を利かせて、

「後ろにもイケメン達がおりますので」

山城から二人を引き離した。


「やっぱり、お前が一番モテている」
「女性職員達から山城の名前と部署の質問攻めだ」

グラスをあおり、少年のような顔で歯を見せ笑うと、
谷口ですら口をあんぐりと開けたままとなった。



薄暗いバーカウンターで、カスタム社長、並木の携帯電話が鳴る。
ウイスキーを口に運ぶのを止め、電話に出ると、
プロフィット社長、坂田匠だった。

「並木です」

「久しぶりだな坂田だ」

「今夜はパーティーでうちの女性職員がお世話になっています」

「うむ、紛れ込んだネズミが本格的に動き出した」

「そうですね、うちも猫を放します」

「あぁ、私も手を打ったところだ」

「ところで、新商品の開発具合はいかがですか?」


並木の横に座っている若い女はダンヒルをくわえ
デュポンのライターで火を付ける。
キーンという乾いた金属音を発し火は消された。

並木はちらりと女に視線を向ける。
女は火を付けたタバコを並木の口に持って行く。


タバコを口にくわえると、
右手に携帯を持ち直し、左手人差し指で
プロフィット社秘書 長沢の背中をすーっと撫でる。
長沢は背を反らし曇った声を出した。










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  1. 2017/03/27(月) 00:00:00|
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余録117 萬年筆奇譚 第3章 パーティーの女篇2節

二人のエステティシャンの前でバスローブを脱ぎ
中央のベッドで仰向けになる。

一人は下半身にバスタオルを掛けてくれた。

オイルを垂らして全身をほぐしていく。
柔らかい筋肉には女性の指が刺さるように入り込む。

ネイルと髭を剃ってもらう。
女性の勧めで少しだけ髪をカットした。



入店してから2時間半。
ジーンズにポロシャツを着て受付に姿を現す。

クレジットカードを差し出し、

「ありがとう、またお願いするね」

「ぜひお越しください」

クレジットカードと利用明細。
さらに会員証を両手で返しながら笑顔で答える店員。


白山が店を出ると、

「白山様・・・・来た時と帰る時。全く雰囲気が変わるわね」
「それも月1回ルンペンみたいになって現れて」

「でしょう?何をしている人かしら?」



M3が自宅駐車場に停められた時には日は落ちていた。

腕時計で時間を確認した白山は、
自宅に入ってパーティー用の服を選ぶ。

パーティーといっても、所詮企業の合コンのようなもの。

淡く華やかなスーツに濃い緑のネクタイ。
そしてエメラルドのタイピンとカフス。


自宅にタクシーを呼び、ネクタイ、カフスはポケットにねじ込んで乗車。
運転手に会場になっている、六本木の高級ホテルを告げた。


ホテルと道を挟んだ向かいに停車させる。
パーティーが始まる40分ほど早く到着した。


ホテル入り口が見渡せるビルの喫茶店。
窓際に陣取り、アイスコーヒーを注文。

RHODIA No.12とモンブランNo.149の90周年記念モデルを
取り出して、双方企業の来場者をチェックする。


モンブラン マイスターシュテュック 149 90周年記念 10171910_10152081233752861_5542575530997156266_n RHODIA No12 10523866055




一番乗りは、幹事になっている
谷口水男と、カスタムの女性社員だった。

「確か彼女は経理だったかな?」

プロフィット男性職員が数人現れた。
企画開発の連中だ。

タクシーが横付けされて女性職員が3名ほど。
営業部門の職員。

総務課の男性職員も来た。


真っ白なリムジンが止まる。

「・・・・?」

総務課の名取英子と大下悦子だ。
名取はピンクのドレスにケリーバッグをぶら下げている。
巨大なバストを強調するように、胸元が開いている
大下は真っ白で清楚なドレスだ。

確か・・・・名取は・・・・・
ラミー電気の娘だったっけ?
大下の家も・・・・シェーファー重機を経営していた?


「ダメだプロフィットの社員がよくわからない」
「あまり顔を見せていないからなぁ」

もう、パーティーも始まりそうだし、
そろそろ向かうか。


席を立った時、徒歩で現れた女性に驚く。



「鵜飼玲子・・・・・」




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余録116 萬年筆奇譚 第3章 パーティーの女篇1節

カスタムコーポレーション社長室から総務課に戻った白山。


「課長・・・・腹痛が酷くて・・・・早退して良いでしょうか?」


デスクから顔を上げた草野は、じろりと白山を見た後。


「社長室で絞られて腹に来たな」
「僕は君のお陰で胃が痛いんだよ」


渋々もったい付けながら休暇申請用紙に判をつく。


「では、皆さんお先です」



社屋から自転車に乗って帰宅する白山。
総務課の窓からそれを見ていた大下悦子が独り言のようにつぶやく。


「自転車?近くに住んでいるのかしら?」

「まさか。ここは渋谷よ。アイツが住めるような家はないはずよ」

「でも・・・・・不思議な人ね白山さん」


総務課の窓よりはるか上階。
秘書課の窓から同じように下を覗く鵜飼玲子の姿があった。




渋谷から自転車に乗り世田谷。
R246の坂道も涼しそうな顔をしてペダルをこぐ。

池尻大橋の交差点を曲がり
世田谷公園を横切る。

中目黒に通じる街道脇に、真っ白な塀に囲まれた
戸建て住宅が現れる。

その正面玄関で自転車を降り、門をくぐっていく。



庭は広く芝生が貼られ手入れが行き届いている。
白い平屋建ての大きな母屋、
少し離れてシャッター付き5台収納のガレージ。

ガレージから門まではコンクリートで舗装されている。

リモコンスイッチを押すと音もなくガレージのシャッターが開く。
全て頭から突っ込んで停められた3台の車の尻が見える。


シルバーメタリックのメルセデス・ベンツ・SLKクラス。 ルーフは開いたままだ。
ブルーメタリックのBMW・M3。
そしてブラックのポルシェ911カレラ。


そのガレージの隅に自転車を入れると、母屋に向かった。


玄関の鍵を開け、すぐに広がるリビングダイニング。
そこでヨレヨレのスーツを脱ぎ捨てると、
廊下を挟んだウォークインクローゼットへ。

ジーンズと長袖ポロ。
襟を立て、カジュアルな格好で自宅を出て行く。


ガレージに停めてある中央のブルーメタM3に乗り込むと
プッシュスタートボタンを押す。

一瞬むせるようなセルの音を追いかけるように
3.0リッター直列6気筒ツインスクロールターボ・エンジンが目を覚ます。

サングラスを掛け、シフトレバーをRに。
車体がガレージを出た時にリモコンスイッチを入れシャッターを閉じる。
コンクリートで舗装されたターンエリアで車を回り込ませると、
正面玄関の門扉が自動で開いた。


歩く方が速い速度でゆっくりとアプローチする。
こんな速度でもエンジンが息継ぎをすることもなく、
ミッションもガクガクとしない。


自宅を出て住宅地は制限速度であまり過給圧を上げないようゆっくり流していく。
ほどなく首都高速3号渋谷線に乗り込み六本木へ向かう。

430馬力を絞り出すエンジンは、太い19インチのコンチネンタルタイヤを持ってしても
簡単にテールがスライドしてしまう。
後輪をグリップさせることに神経を使いながら
アクセルを踏み込んでいく。

ハンドル手元のパドルを使って増減速を繰り返すうちあっという間に出口。



そのまま青山公園を過ぎて、エステサロンの駐車場へ。

階段を駆け上がって受付でメンバズカードを提出。
受付の女性が笑顔で応対する。


「白山様、お待ちしておりました」

「今夜は、パーティーがあるんだ。よろしくね」


白山はまずシャワーを浴びる。
エステルーム脇の更衣室で裸になる。
ジーンズにポロシャツでは細身に見えた体も、
筋肉が浮かび上がり無駄な脂肪もない。

そぎ落とされたような下腹部は、
水泳の選手のようだった。

シャワー室では入念に全身を洗い、
熱い湯と水を交互に浴びた。


バスローブを羽織ってアロマの香りがする部屋に通される。


女性エステシャンが2名。白山を待っていた。



















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  1. 2017/01/23(月) 00:00:00|
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プロフィール

銀狐

Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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