銀狐の文具稲荷

-文房具を覆う表現を剥がし愛情を込めて丁寧に貼り付けた簡素な艸菴- (Since 2007-01-04)

余録123 萬年筆奇譚 第5章 尋問篇1節

ホテルの一室。


女が男にまたがり腰を振っている。


髪を振り乱しながら腰を振っているのは、
プロフィット社 秘書の長沢枝美子だ。


「で?そのことを彼に話したというの?」

「そ、そうだ。」


谷口が女の下、腹で呼吸していた。


「アナタ、おしゃべりね」





「うっ、彼は信用できるよ」

「どうして言い切れるの?」

「だって、この開発商品の情報を持ってきたのは彼なんだから」


長沢は腰の動きを止め、
谷口を見下ろす眼が大きく開かれた。


「彼が持ってきたの?」

「そうだ」


谷口からゆっくり視線を天井に上げ、ニヤリと笑う。


「アナタって、本当におしゃべりね」


そう言うと腰を捻った。


「うううぅ」


大きな声を出して谷口は果ててしまう。



長沢枝美子は、谷口の体を降り、
そそくさとシャワー、身支度を済ませ
出て行ってしまう。


ホテル地下駐車場、グレーの
FIAT500アバルト 695 BIPOSTO に乗り込み、
長沢は大声で笑い出す。

ひとしきり笑った後、


「可愛い顔して・・・・・何者なの?」


ルームミラーをにらみつけた。




「山城君」

山城は、経理部長に呼び止められた。


「来週3日ほど、カスタム社に出張してくれるか?」

「カスタム社ですか・・・・?」
「なんでしょう」

「カスタム社とプロフィット社はしのぎを削るライバル社ではあるけど」
「色んな部分で業務提携をしていて、部品等の共有をしてコストカットをしているのは知っているだろう?」
「特許も生産台数の制限等はあるものの互いに融通し合っている」

「先代社長時代からは考えられないことなんだが、現社長同士妙に気があって居るみたいでね」
「数名のプロジェクトでカスタム社に派遣することになった。膝をつき合わさないと決められないこともあるからね」
「君は渋谷に自宅があったね。直行直帰でかまわないよ」


部長はひとしきりしゃべると、山城の返事を待つことなく肩を叩いて去って行く。


「カスタムか・・・・・」


翌週、山城達5名はカスタム社に送り込まれる。
山城を除く4名は、社用車のトヨタアルファードに乗って。
銀座のプロフィット本社を後にする。

山城は、タクシーで渋谷カスタム本社に。

本社玄関前で待ち合わせて、カスタム社それぞれの担当者と調整に入った。

昼食時、プロフィット社員で外食に出ようとした際、噂を聞きつけたのか、
総務課の名取と大下が駆け寄ってくる。


「山城さん、お久しぶりです」

「やぁ、君たち。元気だったかい?」


二人からはパーティーの時に見せた高圧的な態度は失せて、
どこか女子学生のそれが感じ取れた。


「今からお昼ですか?」

「うん、渋谷周辺には疎くてどこか美味しいお店は知らないかい?」


二人はプロフィット社員を一瞥した後、


「美味しいところにお連れしますけど・・・・・」


そう言って、また社員達を見る。


「山城君連れて行って貰いなさい。かまわないよ」


年長のプロフィット社員が気を利かす。


「いえ、そういうわけには」


二人から候補の店を聞き出し、5名で外出する。
二人は触れなば落ちんといった表情で山城を見送る。


「君はどこに行っても人気があるね」

「いえ、先日のパーティーで一緒だったものですから」
「それより、今回は谷口は来ていないのですね」


企画開発からは別の者が参加していた。


「そうなんだよ。急遽変更になったみたいだ」

「なにかあったんですか?」

「わからないなぁ」
「社長がお決めになったとか聞いているが詳しくは・・・・」


昼食を摂って、カスタム社に戻りエントランスを歩いていると、


「白山君!」


小さいがはっきりと聞き取れる声がした。
プロフィット社員は誰も気がつかなかったのだが・・・・・・

山城は反応して声のする方に振り返った。
振り返りざまに反応したことを悔いた。


「ちっ!ミスった!」


声の主は、鵜飼玲子だった。











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  1. 2017/08/28(月) 00:00:00|
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余録122 萬年筆奇譚 第4章 疑惑篇3節

プロフィット社経理課。デスクに座り新開発商品の予算書に目を通す。
予算書を見る限り、あくまでも自社制作で金型からの子会社発注となっている。

研究室等で自作する費用として予算が組まれており、
増額分の補正予算が計上されている。


「でたらめか」


誰かが開発費を横領をしているようだ。


どうする・・・・・
こざかしいことをするより、正面突破の方が良いかもしれない。




「水男!久しぶりだな」

「やぁ、山城か。この前はすまなかったな」

「どうしたんだ?お前らしくない」

「いや・・・・お前のすごさに少々劣等感を持ってしまった」


パーティーでの乱痴気騒ぎのことなのだろう。
男としての自信をなくしたように見えた。


「お前に聞きたいことがあるんだ」

「?」

「仕事が終わったら、ここに来てくれ」


そう言ってホテルラウンジを指定する。


20時を回った頃谷口は指定されたラウンジに姿を現した。


「呼びつけてすまなかった」

「かまわないが、どうしたんだ」


山城は、ゼロハリバートンを開けると、経理台帳の抜粋を差し出し、


「この台帳には全く不備はない」
「しかし、現地調査で不正が行われている事が分かった」


台帳をパラパラめくりながら、


「金のことは・・・・専門外だ。わからん」

「補正予算を組んで5000万円払い出したが、開発には使われていない」
「ここだけではない。他の町工場にも足を運んで聞き込んだが、形跡がない」


山城は、さも聞き込みを複数の工場にしたようなハッタリを言った。


「だから・・・・よく知らないんだ」

「そうか、ではこれをマスコミにリークして調べて貰ってもかまわないんだ」

「マスコミ?社の上層部ではなしに?」

「そうだ、黒幕が社長かも分からないからな」
「しかし、社長から調べて欲しいと命令を受けた」
「公になると、背任、横領。社の株は暴落だ」


「ま、待て」「どうすれば良いんだ」

「水男が関わっていないのなら心配することもないだろう」

「い、いや、そうだけど」

「正直に話すなら、マスコミは待っても良い」


山城は、谷口の目をのぞき込みながら
ポケット内ボイスレコーダーのスイッチを入れた。


「本当のことを話すよ」


そう言った水男は山城に打ち明けだした。

開発費は会計計上した後、子会社の零細町工場に丸投げをして、
開発をさせる、それを本社開発担当者は共同開発の名目で監視する。

さらに、追加で補正予算を計上し、帳簿上は支払われたことにして、
本社内で処理される。

そうして宙に浮いた膨大な開発予算は、カスタム社、プロフィット社を
合わせて数十億規模に上るという。

もちろん、法人税もごまかしている。

予算を2人の社長は裏献金等に使用して、
社の存続を図る資金としていること。


驚く内容が谷口の口から出てきた。

山城はにっこり笑いながらボイスレコーダーのスイッチを切った。


谷口を問いただした後、一つの疑問が残った。


「なぜ、プロフィット社長は予算調査を依頼したのだろう?」


























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余録121 萬年筆奇譚 第4章 疑惑篇2節

パーティーから2週間ほど後、山城晶夫は白山峰夫となって、
カスタム社に出勤する。

いつもの寝癖、無精ひげ、よれたスーツ、歪んだネクタイ
黒縁の大きなメガネ。


昼過ぎに社長室を訪れて、

開発に5000万円の補正が組まれ、横領された可能性があること。
町工場と共同で試作中であること。
カスタム社女性職員で特に不穏な者はいなかったこと。

調べたことを詳細に報告した。


ただ、営業部、長原の実家ということは報告しなかった。


秘書の鵜飼玲子は休んでいた。


総務課に戻りデスクに座る。
いつも元気な名取と大下が放心状態で座っており、
課長がその周囲を頭を抱えて歩き回っていた。

パーティーからこちらずっとあの調子らしい。
何をやっても上の空。

大企業の令嬢二人を預かる課長だ。
元気で居て貰わねばなんと言われるか分かったものではない。



帰宅して、長原に電話をかける。


「かけてきてくれたのね」

「ごめん忙しくてなかなか連絡が出来なかった」

「うれしいわ」

「お父様の工場には開発担当の者も行っているんでしょう?」

「そうね、担当者は週末はお休みで来ないけど」
「工場で父は週末も働いているわ」

「今週末お邪魔しても良いかな?」
「まず、君のマンションに寄ってから一緒に行こう」

「わかったわ、待っている」





週末、黒いポルシェで長原純子を迎えに行く。
古くお世辞にも綺麗ではないマンションから、彼女が恥ずかしそうに出てきた。
パンツスーツに綺麗な髪は後ろで束ねられていた。


「お待たせしてごめんなさい」
「汚いマンションで驚いたでしょ?恥ずかしいわ」

「いや、とんでもない」


長原は実家の町工場の住所を告げる。

途中、実家に土産と作業着と靴、軍手を購入する。


都内ではあるが下町風情が色濃い中小工場が建ち並ぶ一角に長原製作所はあった。


「ここよ」


あまり広くない道なので、
山城は工場敷地に少しポルシェを入れて駐車する。

着古してはいるが洗濯された作業着を着た高齢の男性が奥から出てきた。
白髪で頑固な職人という言葉の似合う人だった。


「純子か」

「お父さん」

「紹介するわねプロフィット社の山城さん」
「父です」

「山城です。突然の無礼をお許しください」

「いえ、娘が会わせたい人と言うから婚約者かと」

「経理を担当して現場を知らないものですから」
「無理を言ってお邪魔させて頂きました」



途中で買った高級菓子の箱を差し出す。
父親は恐縮した表情で、手袋を脱ぎ受け取ると、


「そんな綺麗なスーツですと・・・・・」

「しばらくお待ち頂いてもかまいませんか?」


そう言うと、ポルシェのボンネットを開け作業着を取り出した。
おもむろにスーツを脱ぎ、黒のボクサーパンツ一枚になる。


「や、山城さん。外ですよ」


純子が制止するもかまわず作業着を着始める。
しなやかな山城の体をまぶしそうに見つめる。

それを見てニヤリと笑う父。


「本社のホワイトの方で、作業着を持参された方は初めてだ」

「ここではこれが正装と思いまして」


着替え終わると、父親に案内されて工場内へ。
見たこともない大きな機械が整然と並んでいる。
油や金属を旋盤した匂い。従業員の汗の臭いも染みついている。
嫌いではない。

整理整頓され予想以上に清潔だった。

工場の奥、シートが被せられた作業台の上に試作品が無数に並べられていた。


「こんなにあるんですか?」

「そうです不具合が出ると予備の物が必要になります」
「数種類作ります」

「なるほど」
「予算もかかるわけだ」

「本社も財政難でなかなか良い予算は付けてくれませんよ」

「でも・・・・補正・・・・」

「本社の方に申し上げることではないが」



と、前置きをして、説明してくれた。

ここでの試作はほとんど町工場に丸投げにして、
予算はくれない。後の発注で回収できるだろうと言うのが、
プロフィット社のやり方らしい。

話が違う。


「親会社を変えるおつもりはないのですか?」

「親会社があるだけありがたいんです」


白髪の頑固職人は力なく笑った。

その後も、父親は冗談を言って笑わせたり、
山城のそばから離れず説明をし、実際に機械を操作して見せた。

それを後ろから微笑ましく見つめる純子。


晩ご飯を一緒にと言う、父親の申し出を遠慮して
長原純子を乗せてマンションに向かう。


「あんな父を見たのは久しぶりだわ」
「よほど山城さんが気に入ったみたい」

と、クスクス笑う。
その笑顔がどこか父親とダブって見えた。

「長原さん、もし、もっと待遇の良い会社が」
「下請けを依頼してきたら考えて頂けますか?」

「カスタム社も同じようなもの」
「そんなに待遇の良い会社なんてないわ」


そう言ったきり、長原は窓の外を眺めた。

マンション前にポルシェを付ける。


「今日は来てくれてありがとう」

「いや、押しかけて申し訳なかったね」


クスリと笑いながら、


「スーツ姿も良いけど、作業着姿は格好良かったわ」
「おやすみ」


そう言うと、山城の頬にキスをして下車していった。

















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  1. 2017/06/26(月) 00:00:00|
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余録120 萬年筆奇譚 第4章 疑惑篇1節

リムジンが名取邸に到着すると、門が自動で開く。
大きな和風母屋の横を抜けて離れに停まる。


「後で食料を届けさせて」

「かしこまりました」


そう言い残して運転手はリムジンを母屋に向け走り去った。


「さあ、3人とも入って」


外観は和風の離れだが、内装は大理石が敷き詰められた高級洋式だった。


100畳は超えるであろう大きなリビングに通されると、
巨大なワインセラー。隣の冷蔵庫にはビール等がびっしり並べられていた。


「さぁ、上着なんか取って」


大下が声を出す。


「君は凄いなぁ」


口をずっと開きっぱなしていた水男が言う。


「凄いのは私じゃないわ。パパよ」


「なるほど。うちの企画開発の人間が君たちに熱を上げるのが分かった」


英子を物にしたなら、ラミー電気を手にできる。
技術者なら社の技術者も束ねられるだろうし、知識もある。
そう言いたかったが、水男は飲み込んだ。


「これからは英子と悦子と呼んで」


ワインセラーから白ワインを出しながら、悦子がささやく。

グラスに注ぎ、ワインを飲んでいると
女性達が食料と水を運び込んでくる。

英子は、食料をテーブルに並べさせると、
絶対にこの離れに近づくなと、きつく言う。

女性達は頭を下げ、山城達を見ることなく立ち去った。


「これで、邪魔は入らないわ。朝まで楽しみましょう」


最初は青臭い会話も、酒が回ってくると、
英子は本性を剥き出しにしてくる。

山城は英子を抱えるとリビング横の寝室にドアを蹴って入る。
水男はさらに奥の寝室に悦子の手を引いた。

英子がぐったりしてから山城はリビングに戻り、水を飲んでいると
悦子がよろよろ入ってくる。


英子とは異なりスリムでエキゾチックな顔は、
どこかプライドの高そうな雰囲気がする。
小ぶりな乳房が少し遠慮深い。

山城の体を見た悦子が挑んできた。


英子の寝ている横に悦子を放り出す。

悦子が狂ったような声を上げて気を失ったとき、
空は少し明るくなってきていた。

代わりに起き出し、山城の下腹部を見た英子は
両手を口に当て、目を大きく見開いて


「どうなっているの?」


と、つぶやき体を預けてくる。


それから何回か同時に相手をして、
二人は仰向けになり白い腹が上下する以外動かなくなった。
隣の部屋では水男が毛布を被って眠りこけている。

山城は身支度をすると離れを出て行った。


もう、昼を過ぎた渋谷は日差しがまぶしく、
まだ暑さが残っていた。


タクシーで帰宅した山城は、
シャワーを浴びラフなトレーナー姿でブラックコーヒーをカップに注ぎ
モレスキン紙片を見つめながら飲んだ。

ソファーに座っているうちに深い眠りについてしまう。






泳いでも泳いでも、黒い海の水が襲いかかり、
なかなか岸にたどり着けない・・・・・嫌な夢を見た。



どれくらい眠っただろうか。
携帯電話の着信で目を覚ます。
もう夜だった。


カスタム社長、並木からだった。


「どうだった?」

「参加者達の整理をしているところです」
「秘書の鵜飼さんが来ていました」

「うむ、特定の人物との接触はなかったかね?」

「はい、あれだけの美人ですから、多くの男性に囲まれていましたが」
「特に親しくと言うのはなかったですね」

「そうか・・・・・」
「次に出社した際、聞くとしよう」

「無精ひげが伸びてくるまでお待ちください」


並木は軽く笑って電話を切った。


















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  1. 2017/05/22(月) 00:00:00|
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プロフィール

銀狐

Author:銀狐
雲の近くで紙と筆。本と工藝。
旅・食・美・創・観に魅せられ
鳥・虫・石・艸・風と交わり 閑暇を纏う。

強烈な文具好き。
LAMYとrotringの熱烈な信者であり、
montblancに憧れ、pelikanを愛し、
moleskineを人生のパートナーに迎え、
RHODIAを愛人にして、
Rollbahnと浮き名を流す。

burlingtonにトラベラーズノートと
ファーバーカステルを詰め、
PerkerとfILOFAXを広げた所が書斎。

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